能で楽器といえば鼓や笛(能管)など囃子方の使う楽器が有名です。しかし、これらはいわば効果音を担当するもので、劇の内容には直接関与しません。一方、楽器が劇中で役割をもつ演目として、琵琶が登場する「経正(経政)」「蝉丸」「絃上(玄象)」、笛(龍笛)が登場する「清経」「敦盛」などがあります。なかでもユニークなのが「絃上(玄象)」です。
平安時代、琵琶の名手であった
「経正(経政)」や「清経」では扇を楽器に見立てるのに対し、「絃上(玄象)」は本物に擬して作られた琵琶の小道具、作り物を使う点で異なります。また実物の琵琶を使って音を奏でる場合もあります。ただし、それは金剛流に伝わる「楽入」という
なお、この場合の琵琶は「楽琵琶」といって、雅楽に使われる大型のもの。薩摩琵琶や筑前琵琶のように垂直に立てて構えるのではなく、平家琵琶と同じく横に倒した構えで演奏します。「絃上 楽入」の際は、希少な楽琵琶をどうやって調達するかも演者の悩み所とか。
このほか、鉦鼓を鳴らす曲「隅田川(角田川)」もあります。珍しい上演を眼にできたらラッキーと言えそうです。