能では子方(こかた)と呼ばれる子役は、シテ方の家の子どもが多く演じます。子方がおもしろいのは、必ずしも子どもの役だけではないことです。たとえば「船弁慶」や「安宅」で源義経(成人)を子方が演じます。なぜでしょうか。
ひとつには能独特の「シテ中心主義」。「船弁慶」の前シテは静御前で、義経を大人が演じては、静御前がかすんでしまうというものです。
また「安宅」では、シテの弁慶がとっさの機転で義経をさんざん打ちすえる場面での哀れさが倍増する、という演出上の効果も生まれるのです。また天皇役の多くは子方が演じますが、汚れのない子どもが演じることで神聖さが増す、とも考えられているようです。