能楽の入門講座などで、能装束を着け能面をかける体験をしたことがある人は、装束の重さに一様に驚きます。
能装束は、室町時代には、それこそ普段着と同じものが用いられ、簡素なものだったようです。それが安土桃山時代に唐から織物の技術が輸入され、舞台衣装としての能装束がデザインされるようになります。江戸期には大名の庇護のもと、豪華さが競われるようになり、デザイン、組み合わせなど、現在に受け継がれている能装束の様式が確立しました。金糸・銀糸が織り込まれた唐織りなどは、見た目の豪華さ優雅さとは裏腹にたいへん重くなっています。
これら非常に張りのある装束をしなやかに着こなし、舞うことは身体に大きな負担を強います。平安時代の十二単が10キロ程度、戦国時代の甲冑が25キロ程度だったとされますが、能装束でも、総重量が20キロを超える演目もあります。しっとりした曲でも、甲冑の重さのものを着て、雅な振る舞いを演じているというわけです。