能を見始めたときに、役者のあごが能面から出ていることが気になったことはありませんか? 昔の日本人の顔が小さかった、というわけではありません。能面はあごの出るくらいの方がいいのです。
他の民俗芸能の仮面劇では、顔をおおい隠す大きさのものも多いですね。でもそれらはいかにも化けている、演じている印象を受けるものです。ところが役者のあごが見えていることで、能面は、演者の身体と一体化した印象を与えるのです。あごと首のラインの動きが、木工作品である能面にさまざまな表情の機微を生み出します。なお「直面(ひためん)物」と呼ばれる演目では、役者は能面をかけずに素顔で演じます。