能の伴奏音楽を囃子と呼びます。小鼓、大鼓、太鼓、笛(能管)という4つの楽器(能の世界では「お道具」と呼ばれます)に、地謡を含む5つのパートから構成されており、楽器は囃子方が、地謡はシテ方がつとめるのが通例です。囃子方は専門職で、他の楽器に持ち替えることは原則としてありません。地謡は能のストーリーの「地の文」に当たる箇所を声で表現します。
桃の節句の「五人囃子」は、実はこれが由来。能の本番では数名の地謡が音を合わせて謡いますが、ひな人形は地謡ひとり、楽器4人の5人編成です。
囃子から出てきた言葉はまだあります。例えば「三拍子揃う」の本来の意味は、小鼓、大鼓、太鼓(または笛)の拍子が揃うこと。「ノリが良い」と言うときの「ノリ」は、能の囃子のリズムを指す言葉です。
囃子以外にも、能舞台が檜板を用いた格式のあるものであるところから、転じて自分の腕前を表す晴れの場所を「檜舞台」。能のワキから、主役の副次的な役割を果たす者を「脇役」などと言います。「芝居」や「番組」(トリビアQ106)も同様で、能から生まれた言葉が意外にも多く身近にあります。