能舞台では、ともすると華やかな装束や表情豊かな面に視線がいきがちですが、演者のハコビを見るのも、面白いものです。ハコビによって全体の動きの妙を知ることができ、演者の力を知ることもできます。さて演者のハコビ、足下は足袋によって包まれます。着物を着る機会があれば、足袋は身近な存在です。能楽用の足袋は、一般のものより生地が厚めで、裏地にはネルが使われています。4枚のコハゼでとめますが、けっして足を締め付けるほどではなく、ふっくらと包み込む感触で、長時間座っていても負担になりません。
能面をかけただけでもバランスがとりにくいシテ方にとっては、足下の安定は演じる上で欠かせません。キツすぎず、緩すぎず、アスリートのシューズ同様にほどよいフィット感が大切です。足袋の専門店では、能や歌舞伎の演者の足形が保管され、個々にオーダーメイドの特注品が作られています。橋掛かりを滑るように進むハコビは、足袋によっても支えられているのです。