能には、神や天女など「人ならざるもの」が登場します。舞台上の登場人物が人間かどうか、面で判別できる場合もありますが、他に手がかりとなるのが頭の上のさまざまなデザインの細工物。例えば「羽衣」の天女は、人間の女性役と同様の女面を着けつつ、頭にはきらびやかな冠をいただいて現れます。
頭に載せる道具のうち、仮髪(=かはつ、いわゆるカツラ)をのぞく帽子や冠のたぐいを、総称して「かぶりもの」と呼びます。なかでも地位の高い公家や天皇、神や精霊などがかぶる冠には、華やかな飾りが施されています。 龍、虎、狐、鷺、蝶など飾りの種類は多種多様。それぞれ演じる役柄を象徴しています。たとえば「鶴亀」では子方二名(ツレ二名の場合も)が鶴と亀の飾りのついたかぶりものをいただいて登場し、皇帝(シテ)のための寿ぎの舞を舞います。また、飾りが龍なら龍神(「春日龍神」「玉井」ほか)、狐なら狐の精(「小鍛冶」ほか)に扮していることを示します。
かぶりものが目立つユニークな演目が、近年、観世流で復曲された「鵜羽(うのは)」。多くのかぶりものが出る曲で、なんと鱗(うろくず)、すなわち魚の精まで登場します。つい面に目が行きがちな能舞台ですが、頭の上にも注目してみると、登場人物の性格などを理解し、能をよりいっそう楽しむ一助となるでしょう。