何かとせわしい現代社会。効率と手短さが好まれ、芸能においても、往年のヒットソングがカバーされれば現代風のアップテンポな楽曲にアレンジされます。ところが能楽では、舞台の上演時間が時代とともに長くなっているのです。
演目と上演時間の記録からみて、江戸の末期には現在の9割程度、室町中期には現在の半分程度の上演時間でした(表章氏の研究による)。これは、内容の変化というよりもテンポの違いによるものだと考えられています。「古典」作品を繰り返し演じていく中で、細部の表現に時間がかけられるようになり、全体の上演時間が倍になったわけです。室町の頃よりも、現代人の方がじっくりと能を鑑賞しているのだ、ともいえるでしょう。