地謡は、シテ方が担当し、演目により6から12名が2列に並びます。後方中央に「地頭」と呼ばれる全体の統率者が座ります。謡にはキーがないことを別項(Q19)で紹介しました。
複数の地謡方が、キーのない謡を同じキーで合わせられるのは、地頭の謡いに合わせているからです。しかし、能の舞台は、全員で何度も練習を重ねるものではありません。どうやって地頭のキーにあわせるのでしょうか。
これについては、地頭が、まず先に謡い始め、他の地謡方がそれに続き、さらに、地頭以外が先に謡い終わり、地頭が少し遅れて謡い終える、という作法もあります。観客には、同じキーの謡が重なって聞こえるので、人数の違いは音量の差として感じられても、謡い全体が複数の声としてではなく、ひとかたまりの音として聞こえるわけです。
ただ、地頭に合わせることに気を配りすぎると、謡が間延びして雰囲気を損ねたり、十分な声量が得られずに迫力に欠けることもあります。地謡方一人ひとりがしっかり声を出すことが大切です。かといって、ただ声を張り上げるだけでは、揃わない、聴きづらい謡になってしまいます。地謡方には、作法を心得た上で、声を出しつつも阿吽の呼吸で揃えられるように、地頭と心を合わせる、気を重ねることが求められるでしょう。芯のある声を伴った、揃った謡ができているか。謡の「質」を聴き比べるのも能楽鑑賞の楽しみのひとつです。