ワキ方には、いくつかの決まりがあります。まず主役であるシテ方の相手役だということ。ワキもワキツレもほぼ男の役であること。そして面は絶対にかけないこと。能は仮面劇でありながら、その舞台の重要な演者であるワキ方は面をかけることがない、むしろかけない決まりになっているのです。これはワキが、現実に生きている人物として描かれているためです。シテに相対する者であり、いわば、観客と同じ側に立つ役割を担います。
能の演目は多種多様な世界観を表しています。シテは、時には現実離れした夢や幻のなかの存在としてはかなく現れ、また時にはワキと同じような現実の人間として激しく立ち回ります。面をかけることもあれば、直面のままでいることもあります。
このように、シテの役割の違いによって、能楽の舞台はさまざまに変わります。それが、一連の舞台劇としてぶれなく成立するのは、観客と舞台上に創られる世界とを、ワキが媒介し、共有するように手助けしているからなのかもしれません。