武家の文化の中で受け継がれた伝統芸能として、囃子方、後見、地謡など役者以外も着物を着ている光景は、能舞台に凛とした美しさと緊張感を生みます。また舞台そのものが神聖な場であることを再認識もさせてくれます。
ところが舞台上では、装束姿の役者以外は、着物に袴姿です。羽織を身につけることはありません。着物の正装と言えば「羽織袴」をイメージする人も多いでしょう。舞台だから、と考える人もいるようです。
実は、武家の着物の正装は「紋付き袴」。正しくは紋付きの肩衣と袴の「裃(かみしも)」です。袴をはかない姿は「着流し」と呼びます。袴をはく習慣のない庶民の場合は、羽織で略式の礼装となりました。江戸時代には、能舞台には肩衣と袴で登場していましたから、肩衣を略して紋付き袴姿になったのだと思われます。現在でも、披キや祝賀能、記念の能などでは、肩衣と袴で演じられることがあります。