演能の舞台上ではシテ、ワキなどの語りと問答、地謡、囃子ほかさまざまな音が存在します。そして静寂の中では、装束や足袋のスリ音も、観客に何かを伝える役割をするとまでいわれます。一方でそれらの音と同じくらいに、何かを伝えるのが「コミ(込)」です。「コミ」とは、能楽の専門用語で、次の演奏や動作に移るときに気を込めて取る沈黙の間やひと呼吸、一種のタメのことで、「コミを取る」と使います。
「コミ」は、ひとりの演者にとっては演奏、動作へ思いを込める行為で、「浅い」「深い」といった表現もされます。また、舞台全体では、演者同士が互いの「コミ」を意識することで、相手を見なくても演奏の瞬間やテンポを合わせる重要な要素です。たとえば、シテが囃子に合わせて拍子を踏むときには、シテはいったん踏みつけてコミを取り、囃子側でもしっかり気を込めてコミを取り、踏み鳴らし、打ち鳴らす音が響き合うのです。
観る側にとっても、「コミ」を意識することは、能舞台の上で今まさに展開される思いや意志の行き交いを共有することにつながります。音と同じように、沈黙の間の充実、気合の込め具合に注目することで、より深い鑑賞に近づくことができるのです。