能の音楽は、小鼓、大鼓、太鼓の打楽器と横笛の「能管」によって奏でられます。能管は舞台上、唯一の旋律楽器で、その音色は、西洋の笛や他の日本の笛とも大きく違います。それは能管の独特の構造によるものです。
竹製の笛の長さは40センチ程度が多いようですが、厳密な決まりはありません。外観は漆が塗られた美しい工芸品の趣があり、内側も幾重にも漆が塗られます。この加工は響きのよさにつながると言います。竹を縦に割り、かたくなめらかな竹の表面を内側にして組み直す製法もあります。
能管が他の笛といちばん異なる点は「吹きにくさ」とも言われます。内側の吹き口の近くに「のど」という小さな竹の管がはめこまれています。高音域はかなり強く吹かないと出ず、また通常の音階を外れる音になり、それも能管一本ごとに異なります。
能管の奏でる独特な音は、どう表現されるのでしょうか。能管にも楽譜があり、「唱歌(しょうが)」と呼ばれます。それは音の聴こえ方を言葉にしたようなもので「オヒャイヒョヲイヒャァリウヒ」」などと表記されます。能管一本ごとに音は違っても、聴けばこう聴こえますから、不思議です。
能管特有の音色は他の打楽器の囃子と重なって、能の舞台に稀有の緊張感を生み出します。また「ヒシギ」という最高音は、人の魂を揺さぶる特殊な響きがあり、能の霊的、神秘的な側面を象徴するかのようです。