能のすり足は、古代中国の「禹歩(うほ)」が伝えられたものが源ではないか、という説があります。古代中国の「禹歩」がどのようなものだったか、正確なことは分っていません。古典には「不相錯(あい錯せず)」という記述が残っており、これは、足を踏み越さず、一度揃えてから次の一歩を踏み出す、という意味です。能の乱拍子などにも同様の足遣いが見られます。
「禹歩」の起源は、古代の伝説上の聖王・禹の歩き方だと言われています。禹は、治水事業に邁進し、寝食を忘れて山河を巡ったため、過労によって足が不自由になり、ひきずるような独特の歩き方になってしまったということです。
現在の日本の神楽や田楽などで見られる「反閇(へんばい)」というステップは、禹歩の流れをくむものとも言われ、大地を踏んで活力を吹き込み、五穀豊穣を願うものとされています。相撲の四股も、禹歩からきているという説もあります。