鼓の振動部に張られているのは、馬の革です。たたく側を「表革」、後ろ側を「裏革」と呼びます。舞台の上で、小鼓方が指をなめてこの裏革をさわっているのを見たことがありませんか。あれは、裏革に貼ってある「調子紙」を唾で湿らせているのです。
小鼓の場合、程よく湿っているとよい音が鳴ります。よい音を出すためにまず、小鼓方は、その日の天候や会場の湿度に合わせて、和紙を小さくちぎった調子紙の枚数や貼り方を変え、革を程よい湿り具合に持っていきます。さらにこの調子紙と、革と胴を固定する紐の「調べ」のしめ具合で、鼓の音色を細かく調整しますが、演奏前にいくら微調整をしても、演奏中に乾燥してくると音が変化してしまいます。そこで小鼓方は、革に息を吹きかけたり、調子紙を湿らせたりして、調子の微調整を繰り返しているのです。
ところで、小鼓が柔らかめの仔馬の革を用いるのに対して、大鼓は成馬の丈夫な堅めの革を使います。しかもこちらは乾燥を好み、演奏前には炭火であぶって乾燥させます。小鼓の柔らかな響き、大鼓の乾いた高音は、革の性質の違いと、その管理の仕方に秘密があるのです。