能の大曲「道成寺」では、鐘が「もう一人の主役」とも言われます。鐘を運ぶのは狂言方数名(4人ほど)で、シテ方5人の鐘後見は吊るしたり降ろしたりを担います。
狂言方は、鐘を舞台に運び入れるのが役目。鐘の龍頭に太い竹の棒を通し、前後に分かれて舞台中央まで運びます。そのうちのふたりが、龍頭から伸び、ぐるぐる巻きにされていた綱を解き、長い竹の棒を操って屋根の滑車(鐶)に通します。その後、綱を引いて鐘を屋根に吊り上げるところからは、シテ方鐘後見の出番です。鐘の重さは流儀によって違いますが、70キロから100キロ近くに及ぶ場合もあります。実際に鐘を吊り上げるのは、ふたりが行いますが、後ろから支える役がそれぞれひとりずつ付きます。そして、もうひとりが吊った綱を笛柱にある鐶に結ぶ役(「綱さばき」)となります。その後、物語が進めばふたたび鐘後見が出て、鐘の上げ降ろしを行います。鐘後見の振る舞い方も流儀により少しずつ違います。
観世、宝生の二流では、囃子方が舞台に上がった直後、曲が本格的に始まる前に鐘が運ばれ吊られますが、金春、金剛、喜多の三流では、ワキがアイ狂言に鐘を吊るすよう命じる場面があり、その後で鐘が運ばれます。
流儀による演出の違いを楽しむのも一興です。