能の音楽を担当するのは囃子方です。囃子方は、舞や謡の伴奏をするのではなく、シテや地謡と対等に対峙し、能の調べを構築しています。
囃子方は、笛(能管)、小鼓、大鼓(大皮)、太鼓の四種類の楽器からなり、これを「四拍子」と言います。それぞれの楽器は専門に分かれていて、家の芸として高度な技術と芸風を継承しています。演奏は、ひとり一役。自分の担当以外を演奏することはありません。
演奏では、太鼓が拍子のリードをとりますが、太鼓が入らない「大小物」では、大鼓が小鼓をリードします。打楽器奏者は楽器を演奏するだけでなく、「ヤ」「ハ」「ヨーイ」「イヤー」など掛け声を掛けますが、これは、間合いを取り、演奏の位置を知らせあっているのです。
能で使われる笛(能管)は、竹でできた横笛です。四拍子の中で、唯一旋律楽器であるにもかかわらず、能では、メロディよりもリズムを主として演奏します。このような笛の奏法は、能の囃子方の特色です。
能管の奏法には、謡や打楽器のリズムに合わせずに、適当に音を伸縮して吹く「アシライ吹キ」や、打楽器のリズムにあわせて吹く「合セ吹キ」などもあります。
メロディを重視しないため、能管は、一本一本で長さや穴の位置に違いがあり、調律もされていないことから、音の高さや音階が異なります。能管の演奏は、あくまで謡を修飾して、主人公の心理を象徴的に表現し、気分を醸し出すことが目的となるのです。
現存する流儀には、一噲流、森田流、藤田流があります。
所謂「鼓」としてポピュラーなもので、これも拍子を司ります。左手で調緒(しらべお)と称する紐を握り、右肩に載せて右手で打ちます。調緒を調整することによって、4、5種類の音色を奏でることができます。美しい音色のためには、革に湿気が欠かせないため、演奏中も息を吹きかけたり、唾液をつけたり、絶えず気配りが必要です。
現存する流儀には、観世流、幸流、幸清流、大倉流があります。
大鼓は、拍子を司る手打ちの鼓です。
現存する流儀には、葛野流、高安流、大倉流、石井流、観世流があります。
太鼓は、台に掛けて床に据え、2本の撥で打ちます。革を撥で抑えて響かせない奏法と、大中小に強弱をつけて音を響かせる打ち方があります。2本の撥を使うため、連続打音や複雑なリズムも可能になり、曲に華やかさを与えますので、神、鬼、精霊など、超人間的な役の所作や風流な芸能の描写に用いられることが多くなります。太鼓が入る曲でも、一曲を通して演奏しつづけることは少なく、曲の後半に入るのが典型といえます。
現存する流派は、観世流、金春流です。