源義朝の次男・朝長は、平治の乱で敗れて都から逃げ落ちていく途中、美濃国・青墓の宿で自害します。朝長の乳母子である嵯峨・清涼寺の僧は、これを聞いて亡き跡を弔いに青墓を訪れます。一方青墓の宿の女長者は、朝長に一晩宿を貸した縁から、情深く朝長を弔っています。邂逅した旅僧と長者は共に朝長の亡き跡を弔います。旅僧から尋ねられた長者は、朝長の最期を語ります。膝頭を射られた朝長は、敵兵の手にかかるよりはと、夜更けに「南無阿弥陀仏」と唱え自害し、義朝らは深く悲しんだのでした。夕も過ぎ、長者は旅僧に宿に留まるよう申し出て、旅僧はそれを受け入れます。
旅僧が、生前の朝長が尊んでいた観音
本作は、「実盛」「頼政」とともに『三修羅』と呼ばれています。「実盛」と「頼政」には老武者の妄執が描かれているのに対し、本作では若武者や僧、女主人たちの内向的な情愛や悲哀が描かれています。“難曲”とされる本作は、前シテと後シテが別人であり、修羅能としては類を見ません。『平治物語』が題材となっていますが、朝長の死のほかは創作といってもよいものになっています。
朝長の死を人情深い女長者と旅僧が弔うという筋ですが、前シテが亡霊の化身ではなく女長者という現実の人間である点、また女性に戦物語をさせる点など、あまり例のない設定となっています。前場での女主人の語りは、温かみと悲しみを持ち合わせ、わずか十六歳で亡くなった朝長に情愛を注いでいるかのようです。後場はうってかわって若武者による戦物語で、落ち着きながらもきびきびした動きの中で型所が続きます。
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