比叡山の僧、武蔵坊弁慶は、祈願のため五条の天神(または北野天神、あるいは十禅寺)に参詣をしようと思っていたところ、従者から、五条の橋に化け物のような人斬りが出るので、止めるよう進言されます。いったんは思いとどまった弁慶ですが、怖気づいたと思われてはならないと、怪しい人斬りを退治することを決意し、夜になるのを待ちます。
弁慶が五条の橋へ行くと、牛若丸(牛若)が女装して待ち構えていました。女だからとやり過ごそうとする弁慶に牛若が斬りかかります。弁慶は長刀を振るって応戦しますが、身軽な牛若丸に翻弄されます。ついに降参した弁慶が、どういう人かと問えば、牛若は身分を明かし、二人は主従の誓いを行い、一緒に九条の牛若丸の御所へ帰りました。
日本では非常に多くの人から親しまれている伝説で、京都の五条の橋の上にて、牛若と弁慶が初めて逢った時のエピソードを脚色した能です。元の話では、千本の刀を集めるために夜な夜な五条の橋で刀を持った人を襲っていた弁慶が、あと一本に迫った夜、笛を吹く牛若に出会い、手玉に取られて降参し、家来になるというものですが、能では牛若が人斬りで、人智を超えた化け物じみた存在にされています。弁慶がシテになり、牛若は子方として出てきます。能としては珍しく、ワキが出てきません。
後半の弁慶と牛若の戦いの場面が最大の見せ場です。子方がシテと渡り合い、躍動する斬り組みは颯爽たる迫力があり、目を離せません。また、この曲は程よい長さで、難しい節扱いのない軽快な謡で構成されていますので、しばしば最初に習う謡にも選ばれます。
よく知られたエピソードで能も頻繁に演じられます。観る機会も多く、わかりやすい能ですので、能の初心者、初学者も楽しく鑑賞したり、謡を楽しんだりできるでしょう。
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