旅僧が宇治の里を訪れると、一人の老翁が声をかけてきたので、宇治の名所旧跡を案内してくれるように頼みます。老翁は名所をまわるうちに、平等院へと案内します。庭の扇形に残された芝を不思議に思った旅僧は、老翁にそのいわれを尋ねます。戦に敗れた源頼政がこの地で扇を敷いて自害し、その場所が「扇の芝」と呼ばれていることを老翁は語ります。旅僧が頼政を弔うと、老翁は今日が頼政の命日であることを告げ、自分が頼政の幽霊であることを明かして消えていきます。
里人から、源頼政の挙兵のいきさつと最期の様子について聞いた旅僧は、再び頼政の霊を弔い、頼政と夢で出会えるように仮寝をします。そこに、法体ながら甲冑を着た頼政の幽霊が、世のはかなさを嘆きながら現れ、僧に読経を頼みます。頼政は挙兵から平等院への逃亡のいきさつ、宇治川を挟んだ激しい合戦の様子を伝えます。さらに辞世の歌を詠んで自害するまでを語り、旅僧に弔ってくれるように頼むと、扇の芝へ帰るように消えていくのでした。
本作は、歌人としても高い評価を受けながら弓の達人ともいわれていた武将、源頼政が主人公で、「実盛」「朝長」とともに「三修羅」と呼ばれて重んじられています。物語を通して主要な場である「扇の芝」のいわれは、典拠の『平家物語』にはみられず、本作に世阿弥が取り入れたものとされています。
前場で語られる宇治の名所の叙情的な優美さとは対照的に、後場では臨場感のある合戦の様子が語られます。後シテはほとんど床几にかけたままですが、老体で軍の指揮を執り戦場を見つめている頼政を見てとることができ、わずかな体や扇の動きながらも激しい合戦の様子が表現されます。後シテの面「頼政」はこの曲だけに用いられる特殊な面で、老将の無念と憤りを表しています。頭巾の「頼政頭巾」も本作に特有の装束です。
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