出雲国の美保の関から出てきた旅僧が、都を見ようと京都を訪れます。十六羅漢や仏舎利を拝むために東山の泉涌寺にやってきた僧は、能力に案内されて仏舎利を拝み、感動のあまり涙を流します。旅僧が仏前で勤行をしていると、寺の近くに住む里人が現れ、共に仏舎利を拝みます。里人が仏舎利のいわれを語っていると、急に空が暗くなり、雷が鳴り始めます。里人は自身が
騒ぎに驚いてやってきた能力に、足疾鬼が舎利を奪っていった様子を旅僧が語ります。能力は舎利に関するいわれを語り、共に韋駄天に祈ります。すると韋駄天が現れ、足疾鬼を天上界まで追いかけ、ついには下界へと追いつめて舎利を取り返します。捕らえられた足疾鬼は力を失い、どこかへ消えていってしまいました。
本作は、『太平記』などにある逸話を下敷きに、足疾鬼と韋駄天の舎利をめぐる争いが主題となっています。釈迦が入滅したときに起きた事件が、日本の泉涌寺に場所を移して再現されます。その名の通り足の速い足疾鬼を、神である韋駄天がさらなる俊足で捕まえます。釈迦や舎利を讃える足疾鬼のキャラクターは憎みきれないところがあります。
前場で里人として現れる動きの少ないシテは、足疾鬼の正体を見せる場面でいきなり立ちあがり、仏舎利を盗んで走り出し、舎利塔を模した作り物の台を踏み砕くなど、荒々しい動きを見せます。後場では韋駄天が足疾鬼を追いかける場面が続き、一畳台が上手く使われながら、舞台上で天上から下界までの空間が表現されます。敏捷な動きの演技に合わせて移り変わっていく囃子も聞きどころです。
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