一遍上人の教えを広めようと諸国をめぐっている遊行上人が、奥州に向かう途中で白川の関を越えます。分かれ道があるので広い道を行こうとすると、老翁が上人を呼び止め、先代の遊行上人が通った古道を教えて案内します。荒れ果てた古道を歩いていくと、老翁は古塚にある柳が、朽木の柳という名木であることを上人に教え、西行法師の和歌にも詠まれていることを語ります。老翁は上人による十度の念仏を授かると、朽木の柳に身を寄せるように消え入ります。
所の者が現れて朽木の柳と西行の歌のいわれについて上人に語り、上人が会った老翁が柳の精であったと推量し、上人に回向して不思議な有様を見るように勧めます。上人が念仏を唱えて仮寝をしていると、柳の精が白髪の老翁の姿で現れ、先程道案内をした老翁が自身であったことを明かします。柳の精は阿弥陀如来や念仏に感謝をして、故事や『源氏物語』にみられる柳に関するいわれについて語ります。柳の精が上人への御礼に舞を舞うと、西方から風が吹き、柳の葉は散り果てて、後には朽木の柳だけが残っていたのでした。
本作は観世信光の最晩年の作品で、「紅葉狩」や「船弁慶」などの派手な作品が多い信光には珍しく、老いた柳を中心としたもの静かな趣の曲ですが、随所に華やかさも見受けられます。世阿弥の「西行桜」をならった作品でもあります。三番目物の多くは女性を主人公としていますが、柳の精である白髪の老翁が主人公であるのも特色です。
後場では作り物の中から柳の精が登場し、前場と同じ老翁ではあっても、品格ある尉面に変わって正装に身を包み、清楚で垢抜けた雰囲気をまとっています。柳尽くしの「クセ」はみどころで、鞠を蹴る型や猫が引綱を引く型などの写実的な演技にも注目です。女性が舞うことの多い「序ノ舞」を老翁が舞い、静かで優美な雰囲気の中、太鼓が入ることでゆったりとしたなかにも動きが感じられます。
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