冬のはじめ、北国から来た旅僧が京都・千本を訪れます。美しい夕景色を眺めていると、時雨が降ってきたため、由緒ありげな建物で雨宿りをします。そこに一人の里女が現れ、そこが藤原定家の建てた「時雨の
旅僧は所の者から、定家と式子内親王の忍ぶ恋や定家葛についてのいわれを聞き、逗留して弔うよう勧められます。旅僧が法華経を読誦していると、式子内親王の亡霊が墓から現れます。定家葛が解けて自由の身になったことを喜び、旅僧への恩から舞をみせますが、自身の醜さを恥じた亡霊は再び定家葛の絡みついた墓へと戻っていくのでした。
「定家」という題ではありますが、藤原定家は登場せず、『新古今和歌集』を中心に多くの和歌を残している式子内親王の語りが、二人の恋の物語を進めていきます。歌人としても名高い二人の歌は、作中で効果的に用いられています。(二人の恋が史実であるかは定かではありません)
舞台中央には塚の作り物が置かれ、定家の執心を象徴する「定家葛」が絡みつけられています。前場の中入り前には、シテが塚に姿を焼き付ける型があり、墓の中に消えていくように印象付けられる場面があります。後場の舞では、品格が保たれながらも、式子内親王の激しい苦悩が示されます。後シテの面は流儀や演出によって変わり、舞台ごとに異なった印象を与えます。
定家の執心と式子内親王の葛藤が二重に表現される本作は、大曲の一つとして大切に演じられています。
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