冬、日本全国の寺社をめぐって経巻を納めてまわる旅僧が、奈良の寺社を訪れ、紅葉で有名な龍田川へとやってきます。川を渡って龍田明神に参ろうとすると、一人の女が現れ、古歌を引いて旅僧が川を渡らないように忠告します。女は自分が龍田明神の巫女であると言って、別の道から旅僧を龍田明神へと案内します。冬にもかかわらず紅葉した一本の木を不思議に思った旅僧が巫女に尋ねると、それが龍田のご神木であると語ります。龍田の宮めぐりをするうちに、巫女は自分が龍田姫の神霊であることを明かして、社壇の中へと入っていきます。
龍田明神を訪れた里人は明神と紅葉のいわれを旅僧に語り、出会った女が龍田姫の化身であったことを示唆し、旅僧に奇特を見るよう勧めます。旅僧が通夜をしていると、龍田姫が神殿から現れ、龍田明神の縁起について語ります。さらに龍田の美しさや神妙さを伝えている古歌について語り、川を渡らないようにと再度旅僧に告げます。龍田姫は、白い
本作の前場では『古今和歌集』や藤原家隆の和歌が引かれ、龍田明神のご神体でもある紅葉の美しさを讃えています。後場でも多くの古歌が引用されており、龍田の風景や紅葉の美しさを語る「クセ」はみどころ、聞きどころです。後シテが舞う華やかな神楽は、比較的位のしっかりした囃子で、古い形の神楽をとどめているといわれています。
一畳台の上に小宮を乗せた作り物も効果的に用いられます。シテは中入りの際、この作り物に入り、後場では龍田姫の麗しい姿となって宮の中から現れます。
女性が神となって舞う神楽物には「三輪」「葛城」などがありますが、これらの作品とは異なり、本作では人間的な苦悩は描かれず、昇華された優美さが感じられます。
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