九州・松浦潟の僧が都へ向かう途中、摂津国の山崎を訪れます。野原には女郎花の花が咲き乱れていて、僧は一本手折ろうとします。そこに花守の老人が現われ、花を折ろうとする僧をとがめます。女郎花の歌についてやりとりしていく中で、旅僧はいったん女郎花をあきらめますが、旅僧の風流心を認めた老人は女郎花を持ちかえることを許し、さらに二人は石清水八幡宮へと参ります。そして、山陰にある男塚と女塚は夫婦の塚であって、女は都の人、男は小野頼風であろうと老人は言い置いて、月の輝く夜に木陰へと消えていきます。
旅僧は山下に住む男から、女郎花に関するいわれを聞き、会った男が小野頼風ではないかと示唆されます。夜、旅僧が経を読んでいると、頼風とその妻の亡霊が現われ、往時を回想します。妻は契りを結んでいた頼風が自分のもとへ来なくなったことを恨み悲しんで、放生川に身を投げたのです。妻の亡骸を塚に埋めると、そこから女郎花が生え出ます。しかし頼風が近付くと女郎花は離れていきます。悲しんだ頼風は、後を追うように自らも川へと身を投げました。邪淫の悪鬼に責め立てられる地獄の様子を語った頼風は、成仏を願って消え去るのでした。
男女の亡霊が出てくる能は本作の他にも「通小町」や「船橋」、「錦木」などがありますが、いずれも古い時代に作られたものが多く、素朴な味わいや古風な趣が感じられます。
前場では、老人と旅僧による、美しい女郎花にまつわる歌問答が行われ、風流を感じさせながらも二人の意地が垣間見える、情緒ある場面が続きます。一方、後場は雰囲気が一変し、小野頼風夫婦の亡霊が現われ、まず妻が頼風への恨みを語ります。頼風が地獄での苦しみを語る「カケリ」の場面は、妄執の激しさが描写されており、本作のみどころとなっています。
前場と後場、それぞれ対照的でありながら、終始一貫して流れる女郎花のイメージが作品全体を趣深く風情あるものにしています。
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