出羽の国・羽黒山の山伏が、大峯
里人から野守の鏡の由来などを聞いた山伏は、塚の前で祈祷します。すると、鬼神が鏡を持って現われ、四方八方、天界から地獄まで、様々なものを鏡に映し出します。やがて鬼神は大地を踏み破って、奈落の底へと入っていくのでした。
本作は、『新古今和歌集』や歌学書にある和歌「はし鷹の野守の鏡得てしがな思ひ思はずよそながら見む」という和歌に構想を得て世阿弥が作った作品とされています。
前場では、野守の鏡などに関する伝説や故事がうまく取り入れられ、池の水を何事をも映す鏡に見立てるなど、野守の老人の語りの中に情緒が溢れています。後場では鬼が登場しますが、世阿弥は、人間の執心や怨霊が変化した「砕動風」の鬼と、自然の中にある純然たる存在である「力動風」の鬼の二種類に鬼を分類し、後者には良い評価を与えていません。本作に出てくる鬼は「力動風」の鬼ではありますが、風情が感じられるように工夫が凝らしてあります。
前場の雅味を持つ尉の語りと、後半の力強い鬼神の舞、対照的でありながらも、一貫した芸術性を持って物語は展開していきます。
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