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エマートさんは、学生時代の「聖フランシス」のシテを勤めて以来、たくさんの英語能の作曲や上演に携わってきました。主な英語能を簡単なあらすじとともに、ご紹介いたします。
「聖フランシス」St. Francis 作:アーサー・リトル〔Arthur Little〕 1970年/アーラム大学で初演/シテ:リチャード・エマート あらすじ:クエーカー教徒の旅人(ワキ)はインド・カルカッタの貧民街でひとりの老人(シテ)に出会う。旅人は老人と言葉を交わすうち、老人のなかに感謝に満ちた聖なる姿を見る。それはあたかもアッシジの聖フランチェスコ(聖フランシス)のようであった。老人は去るが、彼は実は聖フランシスの霊であった。その後、旅人の前に聖フランシスの霊が現われる。若い頃の享楽の日々から脱し、貧者のために生きる決意を示した後、聖人の舞を舞う。
「鷹の井」At the Hawk's Well 作:ウィリアム・B・イエーツ〔William Butler Yeats〕
1916年/ロンドンで初演 あらすじ:永遠の生命の泉を求める若者、クフーリン(ケルトの英雄)は、50年も泉が湧くのを待つ老人と出会う。泉の傍らには、鷹の精に取り憑かれて泉を守る女もいた。泉が湧くころあいになると、鷹の精が舞い、老人を眠らせ、若者を誘い出す。そのためふたりとも永遠の生命の水を飲むことはできなかった。そして若者は新たな泉を求めて去り、人生を費やした老人は寂しく残された。
「クレージー・ジェーン(ジェーン物狂い)」 作・作曲・演出:デビッド・クランドル〔David Crandall〕 1983年/東京で西洋楽器と能の動きにより、初演 あらすじ:クレージー・ジェーンという女は、恋人だったトムを探して旅をしていた。ジェーンは、ある町の教会で出会った若者をトムだと言い張り、トムとの踊りの思い出を語り、トムが去ってからの辛い思いを訴える。ジェーンは語りつつ思い出のなかに入り、若者と舞を舞う。ジェーンは舞いながら消え、若者は取り残されてしまう。
「漂炎」Drifting Fires 作:ジャニーン・バイチマン〔Janine Beichman〕 1985年/つくば万博で初演/シテ:梅若猶彦(観世流) あらすじ:地球滅亡後、ヴェイル星雲からの旅人たちが、炎に包まれる地球を訪れた。そこに真紅の炎を纏う老女が現われる。老女は旅人と会話を交わし、自分は地球最後の女の亡霊だと明かして去る。旅人たちの記憶に引き寄せられ、女は再び戻り、愛と記憶の力に支えられ、失われた美しい世界を想いつつ舞う。そして、新たな創生への希望を持って記憶を散らし、宙へ去る。
「イライザ」Eliza 作:アラン・マレット〔Allan Marett〕 1989年/シドニー大学で学生により初演/演出:リチャード・エマート、松井彬 あらすじ:オーストラリアのフレーザー島を訪れた旅人は、老女に出会う。老女は難破船の船長夫人、イライザ・フレーザーの物語を語る。イライザはアボリジニと暮らした後に彼らへの偏見に満ちた嘘の物語をシドニーやロンドンで語っていた。老女の物語もまた誇張が入り、旅人は疑いを持って聞く。実はイライザの化身であった老女は、偽りが通じないと見て去る。その後、再び現われたイライザの亡霊は、偽りから解き放たれてアボリジニの祭りでともに踊り、彼らの文化を悟る。
「クレージー・ホース」Crazy Horse 作:エリック・エーン〔Erik Ehn〕 2001年/サンフランシスコで初演 あらすじ:アメリカン・インディアンの若い女性が夢の告げを受けて、旅へ出る。そこに19世紀に生きたオグララ族、ラコタ・インディアンの戦士、クレージー・ホースの霊が現われ、彼女を導き、失われた笛を探させる。彼女は自分のアイデンティティーと文化について考え、平和を祈願する。
「カモメ」The Gull 作:ダフネ・マーラット〔Daphne Marlatt〕 2006年/カナダ・バンクーバー郊外のリッチモンド市で上演/演出:リチャード・エマート、松井彬/演者:カナダのプロ俳優 あらすじ:第2次大戦中、日系カナダ人の漁師の兄弟は、収容所に入れられていた間に両親を失う。戦後開放されたふたりが、初めて漁にでかけたとき、不思議な女性に出会う。女は兄弟の母に似た運命を語り、母の化身であることをほのめかしてカモメのように飛び去る。その後、兄弟の夢に現われた母の霊は、故郷へ帰れずに死んだ自分の運命を嘆き、訴える。兄弟が、故郷は変わるものと母を説得していると、故郷の鐘の声と港のブイの声が聞こえる。それは故郷と異郷を結ぶものと悟った母は、成仏する。
「パイン・バレンズ(不毛の松)」 作:グレッグ・ジオヴァニー〔Greg Giovanni〕 2006年/シアター能楽アメリカツアーで上演 あらすじ:アメリカ・ニュージャージー州に松しか生えない不毛の地(パイン・バレンズ)があった。ふたりの魔女が、このパイン・バレンズに仲間を探しにきたところ、沼の老人から、昔この地にいたリーズ夫人が13番目の息子を鬼に預けた話を聞く。その後、ジャージー・デビルとなった息子が現われる。お守りを駆使して魔女は戦い、ジャージー・デビルを打ち負かし、退散させる。
「隅田川」Sumida River 古典能の英語版 2009年/ハワイ大学の能プロジェクト。1年間の能授業の集大成として公演。 リチャード・エマート指導・演出(松井彬、大島衣恵指導)
「パゴダ」Pagoda 作:ジャネット・チョン〔Jannette Cheong〕〕 2009年/喜多流の大島能楽堂の能楽師、シアター能楽の合同によるヨーロッパツアーで公演 あらすじ:イギリス人の若い旅の女が、亡父の故郷、中国東南部を訪ねる。そこにあった仏塔のもとに、昔、自分の子どもと悲しい別れをした母とその娘が現れる。二人は、仏塔に来た理由を旅の女に語り終えると、霧の中に姿を消す。旅の女は、近在の漁師から仏塔伝説とともに、母とその娘にまつわる話を聞く。そして母の名は美鈴といい、亡父もまた彼女の子だったと知る。その夜、旅の女の前に祖母の美鈴と叔母の幽霊が現われ、かつての苦労を語る。旅の女は、母親と息子である亡父を含めて、家族が夢幻の世界で再会していると悟り、異国で命をつないだ子どもたちを思って、仏塔の前に佇む。 |免責事項|お問い合わせ|リンク許可|運営会社|
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