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演目事典

ふじ


「能装図」より「藤」
国立能楽堂提供:「能装図」より「藤」

あらすじ
都の僧が、加賀の国より北陸道を経て、善光寺参詣に向かいました。その途上、越中国氷見(富山県氷見市)の多祜(たご)の浦に差し掛かります。美しい藤に目を留めた僧は、思わず古い歌を口ずさみました。その歌の内容は、藤の花を賛美するものではありませんでした。すると、そこに一人の女が現れ、ここ多祜の浦は藤の名所なのに、なぜ藤の美しさを讃えるような古歌を詠じないのか、情趣のない方だ、と咎めます。僧が昔のことをよく知るあなたはどういう人か、と女に問いかけると、女は藤の精であることを明かし、消えていきました。

夜半、僧がまどろんでいると、藤の精が現れます。仏の教えにより、花の菩薩となったことを告げ知らせ、舞を舞います。やがて明け方となり、精霊は朝日の訪れとともに姿を消します。

みどころ
草木の精霊(女体)が主人公になる、三番目物の曲です。旅僧が名所で花の精霊に出会うというシンプルな筋立てで、藤の花の作り出す美しく幻想的な情景を、古歌を引きながら描写した、詩情に満ちた作品です。

三番目物のしっとりとした舞と、詩的な言葉に彩られた情緒豊かな謡を楽しみながら、夢幻の世界に遊び、しばし現世から離れて時を忘れることができるでしょう。

またこの曲は、多祜の浦という土地と、深い結びつきがあります。現在は地形が変わり、能「藤」で描かれた多祜の浦の湖は、わずかな面影を残すのみですが、能「藤」にゆかりの藤の古木は、当地の藤波神社に今もあります。このような能の舞台となる土地を訪ねてみるのもまた、別な能の楽しみ方の一つです。藤の盛りの頃、足を運んでみてください。


演目STORY PAPER:藤

演目ストーリーの現代語訳、あらすじ、みどころなどをPDFで公開しています。能の公演にお出かけの際は、ぜひプリントアウトしてご活用ください。

藤PDF見本
the能ドットコムの「藤」現代語訳、あらすじ、みどころは、作成にあたって主に次の文献を参照しています。書名をクリックするとリンク先で購入することができます。
『能楽ハンドブック』戸井田道三 監修・小林保治 編 三省堂
『能・狂言事典』西野春雄・羽田昶 編集委員 平凡社
『謡曲大観』佐成謙太郎 著 明治書院
各流謡本

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