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演目事典

忠度ただのり


「能狂言画帖」より「忠度」
国立能楽堂提供:「能狂言画帖」より「忠度」

あらすじ
藤原俊成卿(勅撰和歌集「千載集」の選者)に仕えていた人物が、俊成の死後に出家します。彼は西国行脚を思い立ち、春に従僧とともに都を出ます。途中、旅僧一行は須磨の浦に立ち寄り、一本の桜の木を目にします。するとそこに、一人の老人が現れました。老人は桜の木に花を手向け、祈りを捧げていました。その姿に目を留めた旅僧は、老人に話しかけ、しばし語り合った後、早くも日が暮れたため、一夜の宿を頼みます。老人は、平忠度が詠んだ歌を引き合いに出して、桜の木陰を宿にするよう勧め、この桜は忠度の墓標であるから、回向してほしいと頼みます。僧が回向すると老人は喜びの様子を見せながら、花の陰に消えていきました。

旅僧が桜の木陰で寝入っていると、夢の中に忠度の亡霊が現れます。忠度は、自分の歌が「詠み人知らず」として千載集に入っているのを嘆き、作者名を入れるよう、俊成の子の藤原定家に伝えてほしい、と僧に頼みます。その後、忠度は、一の谷の合戦で討ち死にした様子を表し、僧に回向を頼み、桜の木の下へと帰っていきました。

みどころ
主人公、平忠度は、武勇の誉れ高い侍でありながら、極めて優れた歌人でもあるという、異なる面を持った魅力的な人物です。源平の戦いに敗れ、一の谷の合戦で命を落とすのですが、彼は和歌を深く愛していました。この曲では、この世とあの世の境を越えるほどの、忠度の和歌へ注ぐ深い愛情が大きなテーマになっています。忠度の歌は、千載集という勅撰和歌集に入選したにも関わらず、戦いに負けて朝廷の敵になってしまったため、無名の人の作にされてしまいます。亡霊になって、勅撰集の選者(藤原俊成)の関係者である旅僧の夢に現れ、「名前を入れてください」と懇願する忠度の姿に、歌人としての名を残したいという、彼の非常に強い思いを感じます。

「忠度」という能の素晴らしさは、忠度の和歌への愛を、桜をモチーフにした一首の歌をめぐる物語に作り込んでいるところ。美しくも儚い、詩的な情景の連なりとして、くっきりと描き出しています。戦いの名場面も組み込みつつ、観る者は、忠度の生きた時代、世界に入り込み、旅僧の夢を共に見ます。時空を超える、能の魅力のつまった名曲です。


演目STORY PAPER:忠度

演目ストーリーの現代語訳、あらすじ、みどころなどをPDFで公開しています。能の公演にお出かけの際は、ぜひプリントアウトしてご活用ください。

忠度PDF見本
the能ドットコムの「忠度」現代語訳、あらすじ、みどころは、作成にあたって主に次の文献を参照しています。書名をクリックするとリンク先で購入することができます。
『日本古典文学全集33 謡曲集(一)』小山弘志・佐藤喜久雄・佐藤健一郎 校注・訳 小学館
『能楽手帖』権藤芳一 著 駸々堂
『能楽ハンドブック』戸井田道三 監修・小林保治 編 三省堂
『能・狂言事典』西野春雄・羽田昶 編集委員 平凡社
各流謡本

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