時の帝より、摂津国住吉の浦(今の大阪市住吉区)に、新しく浜の市を立て、高麗(こま)や唐土(もろこし)の宝を買い取るようにという勅命が出されます。命を受けて住吉に派遣された勅使は、そこで唐人姿で、大和言葉を話す一人の童子に出会います。童子は勅使に、御代を讃えに来たのだと述べ、携えてきた銀盤に乗せた玉を、帝への捧げ物として託します。そして、住吉の浜の市の様子を語り、周囲の景色を楽しんだ後、天からの捧げ物を積んだ天の岩船が漕ぎ寄せてきたと勅使に教えます。勅使が問いただすと、童子は岩船の漕ぎ手の天の探女であると正体を明かし、嵐と共に消え失せます。
やがて海中から龍神が現れます。龍神は、自分は神を敬い君を守る者だ、天の岩船を守護する役目を担っていると告げ、岩船が住吉の浦につく様子を見せます。龍神は天の探女と協力しつつ、波の鼓に拍子をそろえて岩船を引かせ、さざ波や松風の力を使い、八大龍王の力も得て、住吉の岸に岩船を着け、金銀珠玉を山のように積み上げます。こうして神の加護により、御代は千代に栄えます。
祝賀の雰囲気に満ちた、めでたく爽やかな能です。重厚感は感じられず、軽々として、物語の内容も短く、素直です。
ただ、高麗、唐土の宝を集める、という設定が特徴的で、古い時代の海外交易、国際交流の様子が窺われます。「唐人姿でありながら大和言葉を話す童子」という前シテに、興味が湧きます。能においては、童子の姿で出てくる者は、現実世界の人ではなく、亡霊や精霊など、別世界の存在を表すことが多いのですが、この曲でも、天の探女という、天界の存在でした。国際交易の背景に天界の関わりがあることがほのめかされるのも、即物的な今とは違う世界観があり、面白く、また考えさせられます。
当時の住吉の浦の、海外貿易港としての異国情緒や、天の岩船が漕ぎ寄せる様子、積み込んできた天の宝の内容などを想像しながら観ると、楽しみも広がるでしょう。
観世流の場合、現行曲では前場の大半を省略した半能形式で演じられ、まったくのお祝いの能としています。
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