第二十一代雄略天皇の御代のこと。美濃の国、本巣(もとす)の郡(こおり)に不思議な泉が湧くという知らせがあり、勅使が検分に訪れました。その地で勅使は、霊水をみつけた樵(きこり)の老人と息子に出会います。二人は勅使に問われるまま、泉を見つけ、「養老の滝」と呼ぶに至ったいきさつを語ります。息子が見つけた滝の水を老親が飲んだところ、心身ともに爽快になり活力にあふれたところから、老いの身を養う意を含めて名づけたのでした。さらに老人は、滝壺を指し示して勅使に場所を教え、さまざまな長寿と水にまつわる故事を引き、養老の滝から湧く薬の水を讃えます。勅使が帝に良い報告をできると喜んでいると、そのうちに天から音楽が聞こえ、花が散り降るという吉兆が現れました。
ただならぬ気配の中、やがて楊柳観音菩薩の化身と称する山神が登場し、颯爽と舞を舞って、天下泰平を祝福します。
この能は、世阿弥作の神能のひとつですが、「高砂」など世阿弥のほかの作品とはやや違ったつくりになっています。中入り後、神が登場し、祝福の舞を舞う神能の形式はとっていますが、霊的な化身があらわれて昔の物語などを語る他曲と異なり、前シテとツレは、実際に泉をみつけた人間であり、彼らが滝水の霊験を授かるという現実の物語です。
養老で親子がみつけたのは「薬の水」。酒のことを示唆しています。七賢人や曲水の宴など、めでたい酒の伝承を盛り込み、養老の霊水が、澄んだ美しい酒であると印象付けています。濁り酒が主流であった当時、この能で描かれた清らかな酒の印象は、多くの人々に、ことさらみずみずしく受け取られたことでしょう。
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