大原を出て諸国に融通念仏を広めて歩く良忍上人が、大和国の三山の麓を訪れます。所の者から三山のいわれについて聞いた上人のもとに、女が現れます。女は、三山にまつわる一人の男と二人の女の恋の物語について語り始めます。香久山に住む「かしはで(膳/柏手)の公成」は、耳成山の桂子と畝傍山の桜子の二人に愛情を注いでいましたが、やがて愛情は桜子に移り、捨てられた桂子は耳成山の池に身を投げます。恋物語について語った女は、自分が桂子という名前であることを明かし、融通念仏の名帳に名前を書き入れて欲しいと頼むと、池の底に消えてゆきます。
上人は再び所の者に、三山のいわれや公成・桂子・桜子の物語を聞き、弔いを行います。すると、耳成山の風に吹き誘われて桜子が現れ、桂子の祟りを払ってくれるよう上人に頼みます。続いて桂子が現れ、桜子への恨みを語ると、後妻打ちを始め、桜子を苦しめます。因果の報いが晴れた桂子と桜子の亡霊は、西方浄土に生まれることができるよう、上人に弔いを頼んで消えていくのでした。
「三山」は飛鳥の里にある三つの名山を舞台とし、男女の恋物語を下地とした曲です。『万葉集』の世界をもとにしていますが、三山のうち香久山を男として、残りの二山を女として見立てるのはこの能独自の捉え方であり、特有のドラマ性が立ち現れています。
桂子が行う後妻打ちは中世の風俗で「宣言したうえで前妻が仲間を集めて後妻を襲う」という荒々しいものです。華々しい桜子に対する、もはや花咲くことのない桂子の嫉妬心やわびしさが、後妻打ちを通して昇華されていきます。
本曲は江戸中期以降、宝生流が持続的に演目として取り入れ、金剛流は昭和に入ってから編入しました。観世流のものは1985(昭和60)年に復曲されたものが現行曲となっています。
▼ 演目STORY PAPER:三山
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