旅をしている僧が、京の都から南都・奈良をめざし、春日の里に着きます。頃は春の夜、春日神社で一人の里女と出会います。茂っている森にさらに木を植えている里女を不思議に思った旅僧は、その訳を里女に尋ねます。里女は、春日の神の由来を語って、木を植えている理由を説明し、神を信心するよう旅僧に語ります。続けて女は猿沢の池に旅僧を案内します。昔、天皇に寵愛されながらも、愛情が薄れていった悲しみから池に身を投げた采女の話を里女は語ります。里女は、実は自分がその采女の幽霊であることを語って、池の底へと消えていきます。
旅僧が池で読経すると、采女が美しい姿で現れます。采女の役割や活躍した逸話を述べ、月光の中、舞い続けます。采女は君万歳の賀詞をならべ、末永い天下泰平を祈って祝福し、再び池の底へと消えていきます。
本作は、『大和物語』などにみられる采女伝説や、春日神社の縁起、法華経の徳、『古今和歌集』の古歌など多くの題材を取り入れた作品です。古作の能「飛火」を世阿弥が改作したものとも考えられています。采女は古代の天皇に給仕した女性で、地方の豪族の姉妹・子女のうち、容貌がすぐれたものが選ばれました。そうした采女のうちの一人が主人公となり、悲恋を語り、また華やかに舞を舞います。
「クセ」から、太鼓の入らない「序ノ舞」まではみどころです。本作は「序ノ舞」を舞う「本三番目物」の中では詞章の分量が一番多く、主題が多岐にわたるため、演者の力量が必要な曲と言えるでしょう。観世流では、江戸時代後期に再構成した「
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