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1434年(永享6年)5月、幽玄の美で室町の世を瞠目させた一人の男が流罪となった。
世阿弥元清、72歳。
息男の元雅を旅で亡くし、醍醐寺楽頭職を奪われ、世阿弥観世座が没落せんとする時、追い打ちをかけるように室町大樹から言い渡された遠島。
佐渡配流後、村を干魃から救うため世阿弥が死を覚悟して臨んだ「雨乞立願能」は村中に奇蹟を呼び起こしたのか?
戦に巻き込まれて辿り着いた正法寺、父観阿弥の形見である鬼神面、ただ一度きりの命を懸けた新作能「黒木」、そして、この世の万象一切の美を舞った「西行桜」……。
失意と絶望の底にありながらも、「心の花」を咲かせ続けた世阿弥の真の想いとは?
島民たちとの交流を通して「人間・世阿弥」の物語へと昇華させた本作。
構想から6年、芥川賞作家が人間・世阿弥をその身に憑依させ描く、文学史的傑作の誕生。
1959年、新潟県生まれ。93年「ゾーンを左に曲がれ」でデビュー。98年「ブエノスアイレス午前零時」で芥川賞を受賞。『サイゴン・ピックアップ』『箱崎ジャンクション』『武曲』『武蔵無常』など著書多数。能を体感すべく、観世梅若流の謡と仕舞を稽古して本作執筆にあたった。
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